ひとひらの雪
──本当は止めるべき、なんだろうなぁ…。
西沈の方に住んでいる鬼頭は実は、先日の事件の噂を耳にしていた。
斗真の命日に晴流が何者かに殺されかけた。そのことが何を意味するかくらい分かっている。けれど一年前屋上で叫んでいた彼らを思い返したら、言えなかった。
峰村斗真という人間をどれだけ想っているのか知っている。だから、止めない。
──つーか、止めようとしたところであの猪娘は聞かんだろうし。
不良だった斗真を熱血バスケ少年に変えたことと言い、人間嫌いの奈々や対人恐怖症の琥太郎を人並みに引き上げたことと言い、あのエネルギーはどこから来るのか。
雪姫の手綱を握れるのはきっと晴流だけなのだろう。その晴流が居ない以上、見守るしかない。
──だから、早く戻ってきやがれ。天城兄。
あのまっすぐでひたむきな背中が傷ついて、涙に沈んでしまう前に。