ひとひらの雪
鷺沼は病室の扉をノックした。晴流の返事を確認し、中に優真を招き入れる。そして自身も続き後ろ手で扉を閉めた。
「晴流くん。久しぶりだね。」
「…!」
晴流にとっても予期せぬ相手だったのだろう。読みかけの小説を手に固まっていた。どこか不自然なまでに驚いた表情で。
──晴流くんのこの反応。やはり峰村斗真の兄…彼が犯人なのか?
優真は事件当時一人で映画を観ていたという。証明出来る人間はいない。入場したことは確かだが、途中で抜け出すことだって可能だ。まだ想像の域を出ないが。
何より家族の誰よりも弟を可愛がっていた彼が事故で生き残った晴流に対して歪んだ憎しみを抱いた、と考えるのが今のところ一番納得出来る。
だが鷺沼の憶測とは裏腹に晴流はすぐに平静に戻った。先程までの違和感は感じられない。
「…お久しぶりです。わざわざ来てくれたんですか。」
年齢よりも大人びて見える柔和な笑み。完璧な優等生がそこには居た。
中学時代生徒会長を務めていたという天城晴流。見れば見る程、他人に恨まれるような人物とは思えない。