ひとひらの雪
奈々、琥太郎、優真。せっかく彼らの疑いを晴らす可能性を掴んだというのに。中途半端に得た情報がもどかしさを倍増させた。
明日からはまた部活が、そして大会が始まる。家族や友達に犯人捜しを秘密にしている現状では益々僅かな時間しかとれなくなるだろう。
──でも、言えない。これ以上みんなに心配をかけられない。
限られた時間の中で、けれど出来る限りのことはしよう。何もしなかったらいつまでもこのままなのだから。
友達の疑いを晴らす為に他人を疑うなんてとても正義とは言えない行為だけれど。だからこそ、手段を選ぶつもりもない。
雪姫はもう一度ため息を吐くとベンチに身体を預け、空を見上げて呟いた。
「…多少無茶したって怒らないでよね、晴流…」
──唯一自分を保っていられるこの決意を、どうか許してほしい。
浅く差し込むオレンジ色の夕陽に思わず細めた視界。そこにふと、見慣れた黒い影が映った。
「──雪姫ちゃん?こんな所でどうしたのぉ?」
ゆったりとした口調。反射的に見上げた先には、心配そうに覗き込む琥太郎の姿が在った。