ひとひらの雪
小学校4年生からの付き合いである琥太郎は、雪姫が感情を露わにする=何かをやらかすという方程式をすっかり理解しているらしい。うっかり気が抜けない。
「…大丈夫だよ。心配してくれてありがとうっ。じゃあそろそろ帰ろうかな。」
「あっ、雪姫ちゃん!」
呼び止められ、振り返る。琥太郎はどこか不安そうに瞳を揺らしていて。
「…今日、おばさんは居るの?」
「ううん。また残業だって言ってたからわたしだけだよ。」
シングルマザーである咲季はよく仕事で家を空けている。晴流が刺され入院している現状、雪姫はいつも一人だ。
──こんな事件が起きて、怖い目にも遭って。なのに一人ぼっちなんて辛すぎるよぉ。
琥太郎は不器用ながらも笑顔を作り、雪姫に明るく話しかけた。
「良かったら家で夕ご飯食べてって。妹も雪姫ちゃんに会いたがってるんだぁ。」
「えっ、陽菜(ヒナ)ちゃんが!?行く行く!行きたいっ」
ピョンピョン跳ねながら嬉しそうにハシャぐ雪姫を見て琥太郎も嬉しくなる。そして、切に願った。
──こんな悲劇が早く終わりますように。そしてどうかこれからもずっと、大好きな二人の笑顔が見られますように。
微かに光り始めた空の星は、静かに瞬いていた。