未定
事実
その日の夜。
早く帰ると行って出かけたはずの篤人は、9時を過ぎても帰って来なかった。
" 急な飲み会で遅くなる。颯に謝っといて。"
篤人からぬのメールが届いたのは夕方のこと。子煩悩で、仕事が終わると直帰してくる篤人が飲み会に行くことは珍しい。
「一緒にお風呂入るって言ったのにー!」
パパの帰りが遅いと知ってから颯はあからさまに機嫌が悪い。今夜のお風呂を相当楽しみにしていたらしい。
「パパが颯にごめんってさ?絵本読んであげるから、ママと一緒に寝よ!」
「…うーん。」
颯は渋々納得して布団に入る。彼のパパっ子ぶりもここまでくると、さすがの私も諦めがつく。
それから私は颯のご機嫌取りに絵本を二冊読み、やっとの思いで寝かしつけ、退屈な深夜のバラエティ番組を観ながら篤人の帰りを待った。
ーガチャッ…!
「たっだいまぁー!!」
深夜零時過ぎ。テレビを付けたままうとうとしていた私は突然玄関ぬ聞こえた声で飛び起きた。
「えっ、パパ!?大丈夫-?」
「あっ、ママぁ!ちょっとこの靴脱げないんだけど~!!」
慌てて玄関に向かってみると、真っ赤な顔した篤人がヘラヘラと笑い転げながら、履き慣れてるはずの革靴と格闘していた。今夜の彼は、完全なる酔っ払いだ。
「颯君、ただいまぁ!パパでちゅよ~?」
やっとの思いで靴を脱いだかと思えば今度はふらふらと寝室のドアを空け、眠っている颯太の頬にキスをしようとし始めた。
「ちょっと!やっと寝たんだから起こさないでよー!!ほら、水飲んで?」
ここで起こされちゃ、一時間近く粘って寝かしつけた私の苦労が水の泡だ。慌ててリビングへとつまみ出す。
「ぷはーっ………」
コップ一杯の水を勢いよく飲み干した篤人は一気に大人しくなった。散々騒いだあとはおねむの時間らしい。まるで赤ちゃん。
「ねえ、寝るから布団で寝なよ~?」
リビングのソファーに寝転がり、天井を向いたまま今にも寝そうな篤人。
こんなところで寝られては困る、と私は彼の身体を揺すって声をかける。
「えっ、ちょっと…!」
すると、何を思ったか篤人が突然起き上がり私に抱きついてきた。…かなり酒臭い。
「さ~え~…」
そして、耳元で私の名前を呼ぶ。その声は少し涙声のようにも聞こえる。
「…篤人?」
「ずっと…ここにいて……」
そう言って、強く抱きしめてきたかと思えば、しばらくすると耳元で静かな寝息が聞こえてきた。