未明
シーン4 梅宮(ウメミヤ)
   要子は高1と書かれたノートで手を止める。
   ノートを開き、ページに目を落とすと、
   要子の背後に制服を着崩した梅宮が現れる。

梅宮 「中島、おまえ24日ヒマだろ?一緒にクリスマスやるぞ。」

   梅宮の台詞をきっかけに、記子は16歳の姿になる。

要子 『2006年12月21日。
    梅宮先輩がサックスのクリスマス会に呼んでくれた。やっばい嬉しい。
    明日車にひかれるかも。吹部は女子ばっかりだから、
    先輩の競争率も激しいし、気合い入れていかないと。
    てか、私パーカスだけど、行っていいのかな?』

   要子、ページめくる。

要子 『2006年12月24日。』

梅宮 「悪いな中島、いきなり来てもらって。」
記子 「いいえ、どうせ暇だったんで、呼んでくれて嬉しいです。」
梅宮 「いやな、ここ20人で予約したのに、1年が1人インフルになっちゃってさ。
    1人分割り勘にするのもめんどいじゃん。だからほんとサンキュな。
    マジ助かった。」
記子 「そうだったんですか。インフルじゃしょうがないですよね。誰ですか?」
梅宮 「あー、なんだったっけかな、あの、茶髪で化粧のケバイ、ふっくらめの子。」
記子 「えーと、まりちゃん、かな?」
梅宮 「おっ、そんなかんじ。まりっぽい、まりっぽい。」
記子 「同じセクションの子の名前くらい憶えましょうよ。」
梅宮 「だって今さらじゃん。俺あと3か月で卒業よ?」
記子 「じゃあなんで私の名前は憶えてるんですか?」
梅宮 「だってお前、逆に目立つんだもん。
    スカート長いし、髪は黒いし、すっぴんだし。」
記子 「そんな理由か。」
梅宮 「そうだ、忘れる前に渡しておくな。ほら。」

   梅宮、記子にドラッグストアの紙袋を手渡す。

記子 「なんですか?」
梅宮 「急に来てもらったからさ、お礼にクリスマスプレゼント。
    みんなには内緒だぞ。」
記子 「えー!いいんですか?私お返しなんて用意してないですよ?」
梅宮 「そんなこといいからさ、あけてみろよ。」
記子 「はい。」

   記子、紙袋を開けると、液体の入ったボトルが出てくる。

記子 「プロアクティブ?」
梅宮 「そう。高かったんだからな、大事に使えよ。」
記子 「なんでこんなの…」
梅宮 「なんでって、お前の顔、ニキビだらけじゃん。
    そんな顔じゃ彼氏も出来ないだろ?
    だから、これ使って、きれいになるんだぞ。」

   記子、ボトルを紙袋ごと梅宮に投げつける。

記子 「バカ!無神経!大っ嫌い!」

要子 『よりによって、先輩にあんなこと言われるなんて、幻滅だ。
    ホント消えたい。』

   要子は、読んでいたノートを破り、一斗缶の中にくべて燃やす。
   記子はもとの姿に戻る。
   梅宮は投げ返されたプロアクティブを拾い、
   首をかしげ背後の暗闇に消えてゆく。
   要子はまたノートを燃やし始める。
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