マザーズバッグ
いつもの朝
「早く食べなさい!」

「ほら、あなたお弁当。忘れないで。」

「まだ、食べてるの?遅刻するわよ!」

「忘れ物ない?今日、部活は?」

「気を付けて。行ってらっしゃい!」





朝はいつも戦場だ。
これは大袈裟か、本当に戦場と言ってもいい。

主婦、浅沼麻美39歳の戦争は毎朝起床の5時半と共に始まっていた。





夫、浅沼吉成(42歳)とは結婚して15年。
よくある、友達の紹介で知り合い、交際2年で結婚した。
誰より愛してる、永遠に一緒に居たい。
だとか、甘く激しい感情はお互いなかったが、一緒にいると、ホッと安心するような穏やかな恋だった。

15年たった今でもそれは変わらず、平凡だが温かく安らぎのある生活を送っていた。

二人には14歳中学二年の男の子、12歳小学六年生の女の子がいた。

朝はなかなか目の覚めないこの二人の世話で本当に忙しい。

大声で家族を起こして回り、朝食を作り、食べさせる。家族が食べている間に弁当を作り、洗濯をする。
それが終わる頃、それぞれを送り出す。


皆を送り出すとすぐ、麻美は食べ終わった食器を洗いながら、立ったまま残り物で食事を済ました。
だいぶ行儀が悪いのだが、何といったって、朝は戦場だ。
この後、洗濯物を干して軽く掃除をしてから仕事に出なくてはならない。
自分の事などかまってられないのだ。
朝は5分、10分が命取りだから。


麻美は手際よく全ての家事を済ますと、ざっと化粧をし、大きな鞄を持って慌てて仕事に向かった。





何処にでもある一般家庭の朝の風景


そんないつも朝だった。

















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