失 楽 園
部屋に籠ってしまった姉さんの
傷の手当をしようと、
救急箱を持って僕が部屋を尋ねた時、
部屋の中から何かを焦って
片付けるような音が聞こえた。
僕は不審に思いながらも、
姉さんの「どうぞ」という言葉を待つ。
しばらく沈黙が続いた後、
姉さんの声が聞こえた。
「どうぞ」
その声音は、
いつもみたいに穏やかで
優しいものだったが、
微かに震えていた。
僕はぎゅ、と救急箱を持ち直し、
姉さんの部屋に入った。