失 楽 園
空港にはたくさんのひとがいた。
これから家族旅行でも行くのか、
親が押す荷台に乗って
歓声をあげる子供たち。
仕事で何か問題があったのか、
疲れた顔で携帯に向かって怒鳴り、
早足で歩くサラリーマン。
ここにいるひとたちはみんな、
誰も僕らが親殺しをしただなんて
思わないだろう。
「……どこ、行きたい?」
そう聞けば、
姉さんは微笑みながらすぐに答える。
「恭ちゃんの行きたいところ」
「……僕が聞いてるのに」
ふて腐れたように
少しだけ唇を尖らせてみると、
姉さんはきゃらきゃらと笑った。