失 楽 園
「うるさいのよ!!
ぜえぜえはあはあ、気持ち悪い!」
「あ、はあっ、はーっ…う、げえっ……」
姉さんは母さんの足を顔に受けながら、
吐瀉物を床に吐き出した。
母さんは悲鳴をあげる。
「やだ! 汚い!!」
姉さんの瞳が、僕をとらえる。
――たすけて――
姉さんの瞳は、そう語っていた。
助けなきゃ、姉さんを、助けなきゃ……。
それでも僕の身体は
僕の意志に反して動かない。
母さんは吐き捨てるように
「ちゃんと掃除しなさいよ」と
言って父さんの元に言った。
少し遠くで、ふたりの話し声が聞こえる。