失 楽 園




「うるさいのよ!!
 ぜえぜえはあはあ、気持ち悪い!」

「あ、はあっ、はーっ…う、げえっ……」


姉さんは母さんの足を顔に受けながら、
吐瀉物を床に吐き出した。

母さんは悲鳴をあげる。


「やだ! 汚い!!」


姉さんの瞳が、僕をとらえる。



――たすけて――



姉さんの瞳は、そう語っていた。

助けなきゃ、姉さんを、助けなきゃ……。

それでも僕の身体は
僕の意志に反して動かない。

母さんは吐き捨てるように
「ちゃんと掃除しなさいよ」と
言って父さんの元に言った。

少し遠くで、ふたりの話し声が聞こえる。


< 118 / 187 >

この作品をシェア

pagetop