失 楽 園



「……傷、消毒しないと、
 膿んじゃうから……」


苦し紛れにそう言ったら、
姉さんはまた困ったように微笑んだ。


「えっと……あ、でも、自分でやるね。
 ありがとう。
 えっと……そこ、に
 置いといてくれない……?」

「嫌だ」

「え?」

「姉さん、この前もそう言って、
 手当しなかったじゃないか。
 僕がするよ」

「でも……」

「でもじゃない」


僕は半ば強引に姉さんの身体を
こちらに向かせた。



机に無造作に放られていたのは、
限界まで開かれたハサミ。



ざわ、と肌が粟(あわ)だった。


< 12 / 187 >

この作品をシェア

pagetop