失 楽 園
「……傷、消毒しないと、
膿んじゃうから……」
苦し紛れにそう言ったら、
姉さんはまた困ったように微笑んだ。
「えっと……あ、でも、自分でやるね。
ありがとう。
えっと……そこ、に
置いといてくれない……?」
「嫌だ」
「え?」
「姉さん、この前もそう言って、
手当しなかったじゃないか。
僕がするよ」
「でも……」
「でもじゃない」
僕は半ば強引に姉さんの身体を
こちらに向かせた。
机に無造作に放られていたのは、
限界まで開かれたハサミ。
ざわ、と肌が粟(あわ)だった。