失 楽 園
部屋の外で待っていたのは、
美しい女性だった。
左目の目尻にある
切り傷のような傷跡が
やけに痛々しい。
私は彼女に声をかけた。
女性は唇だけ微笑む形で私を見る。
「すみません、
今は面会時間じゃないって
知ってたんですけど……」
私は女性に違和感を覚える。
これだけ目線を合わせている筈なのに、
ちっとも目が合っているという
気がしないのだ。
そこで初めて私は気がついた。
彼女は杖をついている。
目が、見えていないのだ。
あるひとつの可能性が、
私のなかに浮上した。
彼は、青年は『姉』の生死を
直接確認したわけではなかった。