失 楽 園
唇を離すと、彼女はぱちりと目を開けた。
その瞳は烏の濡れ羽のように
黒く美しいが、これから先、
一生物を写すことは無い。
僕の顔も、子供の顔も。
「……恭ちゃん?」
彼女はくすくす笑いながら言った。
僕は優しく彼女の頬を手の甲で撫でる。
「違うよ、恭夜だってば」
「恭ちゃんは恭ちゃんじゃない」
「もう…」
形在る確かなしあわせを、
僕は手に入れた。
このしあわせは、
この先一生壊れないだろう。
……きっと。