失 楽 園




唇を離すと、彼女はぱちりと目を開けた。

その瞳は烏の濡れ羽のように
黒く美しいが、これから先、
一生物を写すことは無い。


 僕の顔も、子供の顔も。


「……恭ちゃん?」


彼女はくすくす笑いながら言った。
僕は優しく彼女の頬を手の甲で撫でる。


「違うよ、恭夜だってば」

「恭ちゃんは恭ちゃんじゃない」

「もう…」


形在る確かなしあわせを、
僕は手に入れた。

このしあわせは、
この先一生壊れないだろう。



 ……きっと。





< 142 / 187 >

この作品をシェア

pagetop