失 楽 園
私は目が見えないから
子どもたちの顔は
よくわからないけれど、
あの男が言うには、
優蛇はよく私に似て、
林檎はあの男に似ているらしい。
そんなこと言われても、
私は既に自分の顔が
どんなものだったのか、
忘れてしまった。
それでも何故か、
あの男の顔だけは
記憶にこびりついているのだけど。
私はシチューの鍋に
かけていた火を止め、
頭上にある棚に手を伸ばした。
指先に感じる
ひんやりとした小さな瓶の感触。
不眠に悩まされている私が、
知り合いの医者に処方して
貰っている睡眠薬だ――……。