失 楽 園
父も母も、ソレの前では
優しい笑顔を絶やさなかった。
反対に、私の前では
笑わなくなった。
私はどうして両親が
私の前で笑わないのか、
わからなかった。
最初は汚物を見るような、
嫌悪を強く映した目だった。
次第に、両親の目は
私に向けられなくなった。
存在を、認めていないのだと
私は敏感に感じた。
悲しかった。
私は不幸だった。
両親が私を見てくれないのは、
ソレのせいだと思った。
私はソレが憎かった。
殺してやりたいくらいだった。
けれどソレは、
私の傍を離れなかった。
ある時私は、友達と遊びに出掛け、
言い渡された門限を破って帰った。
待っていたのは、
ゾッとするくらいに恐ろしい、
怒り狂った母だった――……。