失 楽 園



僕はフ、と鼻で笑い、
自分より小さい彼女を見下ろす。
彼女の顔は、
泣きそうに歪んでいた。


「あっ、あの……すみません!
 迷惑ですよね…っ!」


彼女は早口でそう言うと、
踵を返して駆け出そうとしていた。
僕はその左手首を掴む。

姉さんとは違う、傷ひとつない、
その、手首を。


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