失 楽 園
┣十八歳の誕生日
『躾』と称したそれを見たのは、
僕がまだたった2歳の頃だった。
ほんの少し門限を過ぎて
帰って来た姉さんを、
父さんと母さんは、
口汚なく罵り、
殴り、蹴ったのだ。
過呼吸に陥ってしまった姉さんを、
それでも『躾』をする両親を、
幼かった僕はしっかりと見ていたのだ。
その光景は、僕の網膜、否、
脳内にこびりつき、染み付いて、
決して忘れようの無いモノとなった。
「姉さん」
「なに?」
「僕、姉さんの為だったら
なんでもするから、
なんでも言ってよ」
僕が十八歳の誕生日を迎えた日、
姉さんに向かって
真剣にそう言ったら、
姉さんはきゃらきゃらと笑って、
僕の頭を優しく撫でた。
「なんにもしなくていいよ。
恭ちゃんが元気なだけで、
お姉ちゃん、嬉しいから」
「でも僕、嫌なんだよ。
姉さんが、傷ついてるのを
黙って見てるのは。
……もう、嫌だ。」
姉さんの細くて白い腕を
掴んで言ったら、
姉さんは困惑したような表情を浮かべ、
「私が傷ついてる?」
と首を傾げた。
「傷ついてないなら、
こんなことするわけないだろ!!」