失 楽 園
「えっと……弟、の……恭ちゃん」
「そう……」
すっと目を細める男。
ハラワタが煮えくり返る。
姉さん、僕は、姉さんの弟以外、
何者でも無いの?
男は頬杖をつき、
僕を見たまま自己紹介をした。
「俺は荒瀬比呂(あらせひろ)。
お姉さんとは、いいお付き合いを
させて貰ってるよ」
カァーッと頭に血が上った。
怒りに任せて荒瀬と名乗った男を
殴りそうになって拳を握り締めたが、
僕のシャツの裾を握り締める
姉さんの手が、
それを許さなかった。