失 楽 園



「今まで、何処にいた!!」


後ろで父さんの
暴行を黙って見ていた母さんが、
口を開く。


「男のところじゃない?
 イヤらしい、売女(ばいた)」

「……そうだったら、
 なんだっていうの……?」


驚いた。

姉さんが言い返すのを聞いたのは、
これが初めてだったから。


僕は生暖かい唾を飲み込み、
耳を澄まし続けた。


「私、男のひとの家にいたの……」

「ほらあなた!! やっぱりこの子…」


母さんの言葉を遮って、
姉さんは半ば叫ぶようにして言う。


「結婚を、考えているの!!」


目の前が真っ暗になって、
がらがらと何かが崩れ落ちていった。


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