失 楽 園



粉々になった食器を見て、
母さんはヒステリックに
姉さんに当たり散らし、
その破片を素手で拾わせた。

 姉さんは泣いていた。
 歯を食いしばって。

僕は姉さんの隣りにしゃがみ、
一緒に破片を拾ってあげた。


「……あ…」


姉さんが小さな声を上げる。
見ると、姉さんの指先には、
ぷくりと血の玉が出来ていた。

破片で切ったのだろう。

僕は何も言わず、
姉さんの指を手にとり、口に含んだ。


「恭ちゃん……!?」


 姉さんの血は、甘かった。

一通り彼女の指を舐めると、
僕は絆創膏を取りに行こうと、
立ち上がった。

その時、父さんが僕の横を通り過ぎる。


< 44 / 187 >

この作品をシェア

pagetop