失 楽 園



「…なんでもないよ、姉さん」

「ん……ほんと…?」

「うん……だから、おやすみ」

「……うん…」


姉さんの柔らかな腹を、
幼子にやるように優しく
ぽんぽんと叩いてやると、
すぐに姉さんはとろとろと
眠りに引き込まれていった。

完全に眠りに落ちる間際、
姉さんは囁くように言う。


「…恭ちゃ……だい、すき……」


全身の血が、
怒りとは全く違う感情で沸騰した。

僕はベッドから滑り降り、
足を腕で抱き、そこに顔を埋めた。


顔が熱い。熱い、熱い。


姉さんに、たったひとこと
すきだと言われただけで、
こんなになるなんて。


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