失 楽 園
「そうだな。おい、お前ワインを……」
父さんは姉さんにそう促すが、
僕はそれを制して立ち上がった。
父さんと母さんはそれに
納得がいかなさそうに眉を寄せるが、
そんな彼らに僕は笑顔を向けて
ダイニングから出て行った。
父さんの趣味だけの為に
地下に作ったワインセラーに降りていき、
僕は鼻歌を歌いながらワインを選んだ。
フランス産
ヴィンテージワインの
シャトー・マルゴー。
僕たちの門出には、ぴったりのワインだ。
僕はそれを手に取り、
ポケットにある
小さなビニール袋を取り出した。
ビニール袋には、
すりつぶして粉末にした
睡眠薬が入っている。