失 楽 園
カッターナイフが僕の手から離れ、
引力に従って床に落ちていく。
姉さんは落ちたカッターナイフを拾い、
それで縄を切ろうとするが、
刃が滑ってなかなか切れなかった。
「ねえ……さ…ん……」
足下がふらふらとしておぼつかない。
僕は立っていられず、
冷たい石畳に崩れるようにして
腰を落とした。
「はやく!! はやくしなさいよ!!」
母さんは相変わらず叫んで、
姉さんを叱咤している。
無茶な切り方で、
姉さんの手は傷だらけになっていた。