蒼い雨に濡れながら
健一は一昨日、美樹と会った時のことを思い浮かべていた。
「健ちゃん、一緒に行こうよ」美樹が言った。「健ちゃんが京都に行くって言うから私も京都の大学にしたのよ。私、思うんだけど、大学なんて何処だって同じじゃない?大した違いはないって。だから一緒に行こうよ。京都に行こうよ」美樹は駄々っ子のように健一の身体を揺さぶった。
でも俺は行きたいんだよ。美樹、それでも俺は行きたいんだよ。俺は美樹に、身体を揺さぶられながら、心の中で呟き続けていた。
私の選択の基準は明確だ。健ちゃんが行く場所にある大学で、私の力で入れる大学。ただそれだけ。そして、私は頑張って合格した。あなたも私大には合格している。それなのに、あなたは行かないと言う。受験した大学をみんな落ちたのなら仕方がない。私は何も言わない。でも、そこにある大学に合格したのに、あなたは行かないという。浪人って本当に意味があるの?何の意味があるの?
健一の心に貼りついた歓喜の残像を背景にして健一が唇を噛締めて歩いている。健一の身体を美樹が必死に揺さぶっている。「一緒に京都へ行こうよ」大袈裟に自己主張をしない美樹が、生まれて初めて必死に健一に想いをぶつけている。「一緒に京都へ行こう」そう言いながら、健一の身体を駄々っ子のように揺さぶっている。健一の肩を両手で揺さぶって、訴えている。だが、健一がその想いに答えることはなかった。
「それでもやっぱり俺はもう一度やってみたい」心の葛藤を振り払うように健一はもう一度、呻くようにそう言った。
「健ちゃん、それは我がままだよ」美樹は健一から手を離して、真っ直ぐに健一を見ながらそう言った。「それは健一ちゃんの我がままだよ。気持ちは分かる。ほんとに分かるよ。でも、京大に落ちたのはあなたなんだ。誰の所為でもない。あなた自身の所為なのよ。行く所がないのなら私も言いはしない。でもあるじゃない。それも第一志望で行きたい人が一杯いるような大学なんだよ。私は馬鹿だから、志望校の選定には「健ちゃんが行く場所にある私の力で入れる大学」という明確な選択の基準があった。でも、そんな大学かもしれないけど、私だって遊びながら合格したんじゃない。あなたが京都に行くというから、あなたと一緒に京都に行こうと必死に頑張ったんだ。第二志望だってあなたが選んだ大学じゃない。第一志望が駄目なら行こうって、あなたが選んだ大学じゃないの。何故拒否するの?失礼じゃない。運、不運はある。確かにある。私もそれは認める。でもその運を掴めなかったのはあなたなんだ。あなた自身の所為なんだ。だから、今の現実を受け入れるべきなんだ。私だって頑張ったんだ。馬鹿は馬鹿なりに死ぬほど頑張ったんだよ」
そう言った美樹の言葉を目の前で聞いているかのように、鮮明に思い出す。健一はもう一度庭を見た。梅の花が咲いている。可憐で美しい薄紅色の花が咲いている。その花弁を絹のような雨が濡らしている。
「健ちゃん、一緒に行こうよ」美樹が言った。「健ちゃんが京都に行くって言うから私も京都の大学にしたのよ。私、思うんだけど、大学なんて何処だって同じじゃない?大した違いはないって。だから一緒に行こうよ。京都に行こうよ」美樹は駄々っ子のように健一の身体を揺さぶった。
でも俺は行きたいんだよ。美樹、それでも俺は行きたいんだよ。俺は美樹に、身体を揺さぶられながら、心の中で呟き続けていた。
私の選択の基準は明確だ。健ちゃんが行く場所にある大学で、私の力で入れる大学。ただそれだけ。そして、私は頑張って合格した。あなたも私大には合格している。それなのに、あなたは行かないと言う。受験した大学をみんな落ちたのなら仕方がない。私は何も言わない。でも、そこにある大学に合格したのに、あなたは行かないという。浪人って本当に意味があるの?何の意味があるの?
健一の心に貼りついた歓喜の残像を背景にして健一が唇を噛締めて歩いている。健一の身体を美樹が必死に揺さぶっている。「一緒に京都へ行こうよ」大袈裟に自己主張をしない美樹が、生まれて初めて必死に健一に想いをぶつけている。「一緒に京都へ行こう」そう言いながら、健一の身体を駄々っ子のように揺さぶっている。健一の肩を両手で揺さぶって、訴えている。だが、健一がその想いに答えることはなかった。
「それでもやっぱり俺はもう一度やってみたい」心の葛藤を振り払うように健一はもう一度、呻くようにそう言った。
「健ちゃん、それは我がままだよ」美樹は健一から手を離して、真っ直ぐに健一を見ながらそう言った。「それは健一ちゃんの我がままだよ。気持ちは分かる。ほんとに分かるよ。でも、京大に落ちたのはあなたなんだ。誰の所為でもない。あなた自身の所為なのよ。行く所がないのなら私も言いはしない。でもあるじゃない。それも第一志望で行きたい人が一杯いるような大学なんだよ。私は馬鹿だから、志望校の選定には「健ちゃんが行く場所にある私の力で入れる大学」という明確な選択の基準があった。でも、そんな大学かもしれないけど、私だって遊びながら合格したんじゃない。あなたが京都に行くというから、あなたと一緒に京都に行こうと必死に頑張ったんだ。第二志望だってあなたが選んだ大学じゃない。第一志望が駄目なら行こうって、あなたが選んだ大学じゃないの。何故拒否するの?失礼じゃない。運、不運はある。確かにある。私もそれは認める。でもその運を掴めなかったのはあなたなんだ。あなた自身の所為なんだ。だから、今の現実を受け入れるべきなんだ。私だって頑張ったんだ。馬鹿は馬鹿なりに死ぬほど頑張ったんだよ」
そう言った美樹の言葉を目の前で聞いているかのように、鮮明に思い出す。健一はもう一度庭を見た。梅の花が咲いている。可憐で美しい薄紅色の花が咲いている。その花弁を絹のような雨が濡らしている。