臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
「後ろに目があるなんて事は無いけど、君が眠ってる時は分かっちゃうのよね。……康平ってノートに字を書く時、強く押し付けて書くから音が聞こえちゃうのよ」

「すると、その音が聞こえない時は俺が眠ってるって事か?」

「……それだけじゃないよ」

「他に何かあるのかよ?」

 康平に訊かれた亜樹は小さく笑った。

「字を書く音が聞こえない代わりに、気持ち良さそうな寝息が後ろから聞こえてくるんだよね」

 亜樹は話を続けた。

「付箋はねぇ、……後で君が慌てるのを見たい気持ちもあったけど、日頃イジらせて貰ってるから、やっぱり助けてあげようと思って貼ってたんだ」

「いや、ホント助かったよ。アリガトな」

「……何言ってんの、今日の勉強はまだ続くんだからね。これから君の大好きな数学をやるよ」


 亜樹は照れを隠すように、急いで学習机に戻っていった。

< 108 / 281 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop