臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 国体予選が終わって五日後、平和な日々の一年生達に暗雲が立ち込める。


 練習が始まると梅田が康平達に言った。

「一年全員、十二オンスのグローブを持って第二体育館に来い。それと、練習用ヘッドギアとマッピ(マウスピースの事)も忘れるな!」


 ヘッドギアとは、頭部を保護する為の道具である。永山高校のボクシング部では、練習用として薄い試合用ではなく、少し厚いヘッドギアを使っていた。

 そしてマウスピースは、十日前から各自用意するように先生から言われている。

 一年生達に緊張が走る。


 先輩達がスパーリング(実戦練習)で使っていたアイテムを自分達も使うとなると、やはり……。


 ただ一つ足りない物があった。ノーファウルカップだ。局部を守る道具だが、スパーリングには欠かせない道具の一つである。


 有馬が質問する。

「先生、カップはいらないんですか?」

「今日は使わんから不要だ」

 全員ノーファウルカップを、カップと略して呼んでいる。


 梅田は竹刀を持って第二体育館へ向かった。

 康平達はそれぞれ道具を持って梅田についていった。
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