臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
「あれ、康平……君?」

 康平が声の方に視線を向けると、内海綾香が立っていた。


「私も突き指しちゃったのよね。あっ、ちょっと待って今鍵開けるから。……私、保健委員なんだ」


 彼女は自分の突き指の処置を簡単に済ませると、急いで引出しから綿棒を出して康平へ持っていく。


「悪いな。後は自分でやるからいいよ」

 綾香が献身的な雰囲気を持っていた為か、康平は先手を打って遠慮した。


「ホントに大丈夫? 私、鼻の掃除やってもいいけど」

 康平の予感は的中した。彼女は、鼻の掃除までするつもりだったのだ。

 綾香の透き通るような白い肌を、自分の鼻血で汚せない気がするし、何より親友の想い人である。

 康平は丁重に断った。


 康平はベッドで仰向けになったが、綾香は椅子に座って待っていた。

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