臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 練習四日目、部活に来るのは顧問の梅田だけだったが、この日から副顧問の飯島も部活に参加した。

 飯島は数日前に身内に不幸があったらしく、昨日まで学校を休んでいた。

「片桐と高田、ちょっと来い」

 飯島に呼ばれた康平達は、不思議な面持ちで先生の所へ行った。


「お前ら、部紹介の女の子達に騙されたらしいな?」

「……はい」健太が返事をする。


 飯島は笑った。

「男はなぁ、下心で頑張れる時も多いんだから気にすんな」


 飯島は体育教師で、普段からジャージを着ている。角刈りの頭に浮き出た頬骨、そして浅黒い顔からいかにもスポーツマンといった感じである。

 上級生の練習しか見ていないが、ミットを受けながら冗談を混ぜてアドバイスをしている。


 梅田は柄の悪い風貌から体育教師のように見えるが、なんと数学教師だった。

 部活以外での梅田は、オールバックの髪を下ろし、眼鏡はクロブチで金のネックレスも外している。
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