臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 夏休み二日目、康平は早朝四時に目を覚ました。

 彼は暑さで勝手に起きたのではない。前の日にセットした目覚ましで、意図的に起きたのだ。

 これには深い理由があった。


 ジョギングを始めて一ヶ月たったが、康平は奇跡的に土曜日以外の晴れの日は毎日走っていた。

 これは、強くなりたい気持ちだけで走っているのではなかった。

 ジョギングを始めて一週間を過ぎた頃、彼は毎日同じ人間と擦れ違う事に気付いた。


 新聞配達のアンチャン。

 メタボな身体を駆使してジョギングをする、中年男性の小池さん。

 毎日散歩する、高校教師を定年退職したお爺さんの山田(元)先生。

 この三人は、走る度に毎日逢うので、自然に挨拶するようになっていた。


「お、今日も走ってんな!」

 バイクに乗った新聞配達のアンチャンが言う。


「君もよく続いてるなぁ」

 Tシャツが透ける程汗を掻いている小池さんが、苦しそうな顔で走りながら康平に声を掛ける。

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