臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 兵藤が二年生に訊いた。

「お前らもそうだっけ?」


「はい。うちらも夏休み前までは辛かったッス」

 最初に相沢が答えた。

 続いて大崎が笑いながら言った。

「コイツなんか、毎日退部届けを持ってたんスよ」


 コイツと言われた森谷は、苦笑いしながら話す。

「ルッセーよ。……でも夏休みの練習が始まったら、退部届けは何処にあるか分からなくなったんですけどね」


 着替えを止めて話を聞いている一年生達に、石山が言った。

「そろそろ梅ッチが沸騰してくるから、お前ら早く着替えろよ」


 先輩達は一年生が着替え易いように、全員壁際に位置を移していた。


 ボクシング部の先輩達はみんな優しいし面白い。その点は一年生全員が思っていた。


 先輩達の半分、否三分の一の優しさが梅田にあれば、もう少し民主主義的な部活になっていたであろう。

 だが、それで選手が強くなるかは別の問題である。
< 132 / 281 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop