臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 入部後一週間経っているが、一年生達はまだパンチを教えて貰っていない。

 相変わらず構えだけだが、この日から前後左右に動く練習も加わった。

 飯島は上級生しか見ていないので、一年生には何も言わない。

 梅田も殆ど先輩達を見ているが、時折一年生チラッと見る。

「有馬、右脇を絞れ!」

「高田、右のカカトを上げろ!」

「白鳥、左膝をもっと曲げろ!」

「片桐、右の腰骨はもう少し前だ!」

 全員に細かいチェックが入る。


 永山高校ボクシング部には独自のルールがあり、ラウンド中は特別な事がない限り、返事をしなくて良い事になっていた。

 梅田に言われた本人達は、無言のままフォームを修正する。本人が直したつもりでも直っていない場合には、梅田が竹刀で優しく(?)形を直す。

 拳の位置や膝の向きなど色々細かい。その中でも強調しているのが、顔の向きと重心である。

「顔は正面を向け。顎を横から殴られると効くぞ!」

「重心は、前六後ろ四だ。これで右も左も強く打てるようになるんだ!」

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