臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
宿題を始めてから三十分経った時、康平は眠りの世界へ片足を突っ込んでいた。
亜樹は康平の肩をシャーペンの反対側でつっつき、優しく起こしてあげた。
「まだ寝るのは早いよ」
更に三十分後、康平は字を書きながら眠っていた。書いている字は、得体が知れない文字になっている。
「ちょっとロビーで休憩しない? コーヒーおごるからさ」
「ん? あ……悪いな」康平は目を擦りながら答えた。
ロビーに着いた亜樹は、缶コーヒーを康平に渡すと、心配そうな顔をして言った。
「何処か具合でも悪いの?」
「いや、そんな事はないよ」
「そうかな? 期末テストの前から疲れているようなんだけど……」
「……気のせいじゃないかな」
「それはないわね! 自分で言うのも何だけど、私、結構勘がいいのよね」
「…………」
亜樹は本気で心配してくれていた。朝走っている事は内緒にしたい康平だったが、黙っているのは彼女に悪いと思った。