臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 自分達の後ろで、いい音を立ててサンドバッグを打っている先輩達を鏡ごしに見て、お調子者の健太はパンチを打ちたい衝動にかられた。

 しかし去年この時期、二年の相沢が勝手にパンチを打ったら、悲惨な程怒られた話を聞いていたので、さすがの健太もパンチを打つことを簡単に断念した。

 梅田に言われたラウンドが終わり、柔軟体操をしようとしていた一年生達に梅田が言った。

「お前ら、これから補強を始める。言わば筋トレだ。今から教えるから用意しろ!」

「はい!」


 梅田が教えるメニューは、腹筋背筋、腕立て、懸垂などオーソドックスなものが殆どだったが、特殊なものとしてランジがあった。

 それは、下半身の補強で片方の足を大きく前に出してから体を沈ませる。出した足を元に戻しながら、沈んだ体も元に戻す。それを左右交互に繰り返す。

 このトレーニングは回数ではなく、四ラウンド続けてする。最後のラウンドは、一年生全員が苦悶の表情になっていた。


 全ての補強が終わり、梅田が全員に話す。

「お前ら、今日教えたメニューを毎日やるんだ。いいな!」

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