臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 亜樹は、メモ帳に携帯電話の番号を書くと康平に渡した。

「え、いいのかよ?」

「すっぽかされるよりマシだと思うけど」

「あ、いや、だから反省してるって」



 小肥りで眼鏡を掛けた中年女性が、ロビーへヨタヨタと歩いてきた。

「亜樹ちゃん! そろそろ戻んないと、空いてる席を探している人が多くなってきたよ」

「ゴッメーン! すぐに戻るからね」


 中年女性は康平を見て意味深な事を言った。

「頼り無さそうだけど性格は良さそうだね。亜樹ちゃんは、男を寄せ付けないオーラがあって心配してたんだけどね」

「オバサン何言ってんの! 康平、さっさと戻るわよ」

 亜樹は慌てて机に戻っていった。

 女性は康平の方を向いた。

「亜樹ちゃんは誤解され易いけどいいコだよ。それと、図書館でマンガばかり見ちゃダメだよ」


 どうやら、亜樹が言っていた図書館のオバサンのようである。

 康平は、一度頭を下げてから急いで勉強机に歩いていった。
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