臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 今度は飯島が口を開いた。

「これからサンドバッグ打ちだがアッパーは打つなよ。手首を痛めるからな」


 梅田が付け加える。

「ボディーブローは強く打てよ。意識するだけでいいが、顔面を狙うフックとボディーブローは同じ体勢から打て!」


「意識するだけでいい」

と自分から言っておきながら、三ラウンドを過ぎたあたりから梅田が怒鳴り始めた。


 気が短い人から教わる人間は、本当に気の毒である。


「同じ姿勢から打てと、さっきから言ってるだろうが!」

 梅田の怒号が響く。一年生達は、言ってる意味が変わっている事に気付いていた。

 だが、理不尽大王に反抗できる一年生は誰もいない。

 同じ体勢から打つのは意識どころではなく、いつしか死守すべき命令になっていた。


 練習が終わると、梅田も反省したようで頭を掻きながら言った。

「まぁ、その……なんだ、俺も少し(?)気が短い所もあるから、今日のところは許せ。……お前らは怒られ易い顔をしているから、ボクシングは強くなるぞ」
< 154 / 281 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop