臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 有馬が苦笑しながら言った。

「そん時ヒデェんだぜ。『翔にカツアゲしても何もないから帰ってくれ』だってさ……」

「ごめんな! あの時は初対面だったからな。君達も頑張っていると思うが、翔も頑張ってるよ。学校から帰ってからはすぐに勉強するし、休みの日にはお店を手伝ってくれるしさ。うちの女房も、翔の事は気に入ってるみたいだしな。それに最近は朝五時に起きて……」


「叔父さん!」健太が話を遮った。

「ん?」

「糸屑があると思ったら、俺の見間違いでした」

「……! ああそうか。走ってる事は、誰にも言わないようにしてるんだったな」

 康平と健太、そして有馬は絶句した。


 スーパーの入口から誰かが呼んでいた。

「あんたぁ、レジが混んで大変だよ。翔君があがれないじゃないか」

「お、こりゃまずいな。……そうだ! 俺のオゴリで君達にジュースとお握り一つずつ持って来たんだ。さっき翔が、二百八十円のクリームコロッケを三つも買ったって心配していたようだからな」


「有難うございます」

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