臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 康平の体はガチガチに固くなった。

 内海は、手加減しているのであまりパンチは出さないが、いつでもパンチを打てる体勢で構えていた。


(相手が次に何を打ってくるか)

 そればかり考えている康平は全くパンチを出さない。


「パ・ン・チ・を・だ・す・ん・だ・よ」

 珍しく、飯島からも罵声が飛んだ。


 今の康平にとって、周りの声は遥か遠くの方から聞こえてくるような気がしていた。


 内海が軽い左ジャブを打つ。

 当てるつもりもなく、ただ距離を測る為に打ったのだが、その時康平は下を向いてしまった。


「ストーップ!」

 梅田が叫ぶ。そして、ありったけの声で怒鳴った。

「バッカヤロー! ボクシングは下を向いたら終しめぇなんだよ! 今度下向いたら承知しねぇぞ」

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