臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 山本が、康平以外の三人に指示を出す。

「お前ら他人の事を見ている余裕はねぇぞ。三人共、まず鏡を見ながらのシャドーを三ラウンドだ。フォームのチェックは、この三ラウンド中に徹底してやれ」

「はい!」


 一ラウンド目が終わり、内海が健太に話し掛けた。

「片桐、オメェの下の名前は健太だったな?」

「はいそうです」

「健太、右足だけ内側に向いてもダメなんだよ。右膝を少し左側に入れろ。そして、その角度を変えないで左ストレートを打ってみろ」


 健太はぎこちない感じで左ストレートを打つ。

 それを見て内海が言った。

「ストレートを打つ時は、ギブスでもしたように前足をグッと固めるんだよ。前足がグラグラしてっとパンチがブレるぞ」

 健太が繰り返し左ストレートを放つ。

 十発程左ストレートを打った時、健太は何か気付いたようで内海を見ていた。

「何か感じたか?」

 内海に訊かれて健太は答えた。

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