臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 内海の視線が康平に向けられた。

「康平、ちょっと腰の位置がおかしくなってきたぞ。左の腹筋をもう少し前に押し付けろ」


 山本は、二発の左ジャブを繰り返す白鳥に言った。

「ん? 翔は手と足のタイミングがズレてっぞ。踏み込んだ時、前足を着地させるタイミングでパンチを伸ばせ。すっと二発打てっからよ。パンチは足に合わせて打つんだぞ。……タケもズレてるみてぇだから、二人共前足の着地のタイミングを意識しろ」


 シャドーボクシングは、仮想の相手をイメージしながら、ひたすら一人で動くトレーニングだ。

 実戦経験のない一年生達は、相手を仮想出来る筈もなく、シャドーボクシングというよりもボクシングダンスと言った方がよさそうである。

 何かを打つわけでもなくずっと一人で動くのだから、長いラウンドを続けるには忍耐力が必要だ。

 ようやく、十ラウンド……否、最初から数えれば十三ラウンドのボクシングダンスを終えた一年生達は、次の練習の指示を仰ぐ。

< 205 / 281 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop