臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
「今ウィンナーを摘むとき、箸を持って狙ってたか?」

 山本に訊かれて有馬は答えた。

「いや、何となく取りましたけど……」

「そうだろ! パンチだって練習していれば、何となく打っても当たるように打てるんだよ」


 内海が話に割り込んだ。

「俺にも喋らせろよ。……『狙わないで打て!』っていう表現が分かりにくかったかもな。俺達が言いたいのは、当てようと思わねぇで打てって事だ。要するに、カウンターに気を付けてジャブを打てって言いたいんだよ」

「そうそう、当てる事に集中するとディフェンスが疎かになるからな」

「他の奴にも意識させたいがな。ただ、タケは体重が軽いのに身長は百七十位あんだろ?」

「はい、体重五十キロで身長は百七十一センチです」

 内海に訊かれ、即答した有馬に山本が言った。

「お前は階級にしては身長タケェからよ、特にジャブを武器にさせてえんだよ」

「はい、頑張ります」有馬は背筋を伸ばして言った。

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