臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 内海も再び話す。

「だから右ガードを口の前においておけば、左ストレートを食らう確率は減るわけだ」

「あくまで、一般論に近いが知って損のない知識だからな。結構ボクシングは理詰めだからよ。……ただ試合では、相手も捨て身でフックを打つ奴がたまにいるから気を付けろよ」


 山本が言い終わると、健太が恐る恐る訊いた。

「あの……、僕は左ガードを口の前において、右ストレートを警戒すればいいんですね」

 内海が答える。

「当たり前だろ。オメェはサウスポーなんだからよ……! そうか、オメェに説明する為の実演だったんだよな。まぁ許せや。……それと返しの右フックは明日説明すっからよ。オメェらも、こう暑いんじゃ頭も働かねぇだろ!」


 内海は、返しの右フックの説明を勝手に放棄してしまったが、逆らう者は誰もいなかった。

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