臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 今までのように左手を前に出す構えではなく、左肘を体に付けているスタイルである。左腕の遊びが使えない分だけジャブにスピードが乗らない感じである。

 康平は、サンドバッグ打ちや形式練習でも少し違和感を感じていたが、ミットを打った時、ハッキリと打ちにくさを実感した。


「このガードだとジャブは打ちにくいだろ?」

「はい」

 内海に訊かれて康平は頷いた。


「覗き見ガードを固める為に、肘を体に密着しているから仕方ねぇんだよ。左ジャブは、押すパンチでもいいからしっかり肩を回して打てよ。……それと、左腕の裏側の筋肉を使う事を意識してパンチを出してみろ」


 康平がもう一度ジャブを打つと、前より重みが増したような感触が左拳に残った。


 何度か左ジャブを繰り返した後、内海が両手を重ねて構える。

 これは右ストレートを打つサインなので、康平はそれを打つ。左ジャブよりはスムーズに打てるようだ。

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