臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 緊張しているせいか、康平は三つしかコンビネーションを思い出せないが、何度も頭の中で反復した。


 開始のブザーが鳴った。

 康平から見た時、ガードの間から見える内海が大きくなっていった。

 山本が大きな声で言った。

「パンチは全部ハズレてもいいんだからな」


 康平はまず左ジャブを出す。

 力んでいるのか、康平は自分のパンチを遅いと感じていた。

 距離が離れ過ぎていたのか、内海は何も反応しない。


 康平は空振りするつもりで前に出ながらジャブを二発打つ。

 内海は、康平の右側に位置をズラしながら左ジャブを返した。


 康平の顔に衝撃はあったが、痛い程ではない。グローブのせいか、手加減してくれているのか、たぶん両方であろう。


 下を絶対向かないと心に決めていた康平は、すぐにジャブの後ワンツーストレートを放った。

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