臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 その後、康平は幾度かパンチを繰り出したが全て空振りに終わった。


 三ラウンド目、康平は内海の右ストレートや左フックをブロックの上から浴びた。

 衝撃で腰砕けになるが、下だけは向かないようにとすぐに構え直す。

 山本が言った。

「康平気にすんな。ただ、もう少し呼吸を深くするんだ」

「はい!」

「バカヤロ、実戦の時は声を出すんじゃねぇ! 審判に注意されっぞ」

「はい……あっ!」


 再び返事をした康平に内海が吹き出す。

 山本が苦笑しながら言った。

「いいよ、これも場馴れが必要だからな」


 呼吸を意識する康平を、距離をとって待機してくれていた内海が、見るに見かねて口を開いた。

「下っ腹で呼吸する感じだよ」
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