臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 有馬よりも背の低い山本が、足を使って距離をとる始末だ。


「おい、ジャブはどうしたんだジャブは!」

 内海が有馬に呼び掛ける。


 有馬は興奮しているようで、彼の耳には入っていなかった。


 ラウンド開始から一分半を過ぎても、有馬が突っ込んでいく状態が続く。


「テメェいい加減に……」

 業を煮やした内海が怒鳴り始めた時、逃げ回っている山本が右手で遮るゼスチャーをした。

 そして、有馬の大振りの右パンチをかわして左のパンチを有馬のボディーに軽く打ち込む。

 有馬は「ウッ」と声をあげて右膝を床についた。

 山本が有馬を見下ろして言った。

「テメェから近付き過ぎっと、こんな感じでパンチを貰うんだよ」


 煙でも吸ったかのように咳き込んでいた有馬だが、ラウンド終了のブザーが鳴った時少し落ち着いたようだ。


 内海が言った。

「俺と賢治が見たいのは、そんなボクシングじゃねぇ。この一週間やってきた練習の成果を見てぇんだよ」

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