臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 うなだれながら内海の話を聞いていた有馬に、山本が訊いた。

「お前、テンカウント前に立ったよな。まだやれるか?」

「え?」

「『え』じゃねぇよ。やれるのかって俺が訊いてんだ」

「あの……でも、さっきはテンパってしまって……」

 有馬はまだ動揺しているようだ。

 内海が苦笑した。

「オメェ、賢治の質問の答えになってねぇよ。……まぁやれそうだし、次のラウンドからいくぞ」

 内海は話を続けた。

「タケ、さっきのラウンドの事は忘れて次のラウンドに集中しろ。先週からオメェが練習した事は何だ?」

「肩を入れた左ジャブを狙わないで打つ事です」

「分かってるじゃねぇか。前のラウンドがどうとか、倒そうとか、余計な事は考えんな。とにかく、練習してきた技を実行する事だけに集中しろ」

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