臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 土曜日になった。部活は午前九時から始まる事になっていた。

 一年生達は八時五十分過ぎには全員練習場にいたが、先輩達は誰も来ていなかった。

 ちょうど九時になった時、飯島が練習場に入って一年生達へ言った。

「梅田先生と上級生は練習試合に行ってるから、今日はこれで全員だ。さあ始めるぞ!」


 一年生達はいつものメニューで練習を始めた。

 七ラウンド目を過ぎた時、ミットを嵌めた飯島が有馬を呼んだ。

「有馬、リングに上がれ。習ったパンチを打ってみろ」

 左ジャブから始まり、右ストレート。そしてワンツーストレートと習ったパンチを順々に打っていく。

 有馬はミットとはいえ、対人相手に打つので最初は戸惑っていたが、ミット特有の乾いた音が大きく鳴ると、どんどん調子が上がっていった。

 だがパンチを打つ時、反対側のガードが顔から離れたり、パンチの戻りが悪かったりすると、飯島がミットで軽く顔を触ってくる。

 先生は踏み込みを良くさせる為に、少し遠目からパンチを打たせていた。

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