臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 土曜日練習。二・三年生と梅田は、また他県の高校へ練習試合に行っていた。

 一年生達はこの日も飯島と練習する事になった。


 飯島と梅田は、六・四の重心をはじめとして膝や角度や腕の位置等、指摘する事は殆ど同じである。

 異なるのは正反対と言ってもいい程違うキャラクターだ。

 梅田は、いつも余計な事は言わず恐い雰囲気だが、飯島はとても明るく冗談が多い。


 この日の練習では有馬の動きが違っていた。

 シャドーボクシングの最中に頭を動かし、パンチを避ける動作を勝手に加え出す。彼は数日前のプロの世界戦を見て、チャンピオンの真似をしていた。

 有馬は飯島をナメていた訳ではなかったが、恐い梅田がいないので気楽な気分だったようだ。


 飯島は急に表情を変えた。そして、ゆっくりと有馬に近付き小声で話し掛けた。

「誰がそんな事をしていいと言った?」

 有馬は動きを止めて飯島の方を見た。もう一度飯島が訊いた。

「誰がそんな事をしていいと言ったんだ?」

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