臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
亜樹は、ハッキリものを言う性格のようだ。
(名前で呼ぶのも、結構恥ずかしいんだけどな)
と思ったが、口には出さず康平が言った。
「あ、亜樹は何やってたんだよ?」
「アハハ、ドモッてる。私はバスケやってた。ほら、私って背が高いでしょ? それで期待されていたんだけど、先輩とのレギュラー争いで色々あってね。二年で辞めたんだ」
亜樹は、百七十二センチの康平と同じ位背が高い。
「……それは大変だったな」
亜樹が寂しそうに話すので、康平は心から同情した。
「ぷっ、嘘だよ。二年で辞めたのはホントだけど、意地悪してくる先輩に正面から文句言って、正々堂々と辞めてやったんだ。……意外に思われるかも知れないけど、あたしって気が強いし……」
「全く同情して損したよ。それに誰も意外に思ってねぇよ!」
亜樹が怒るフリをする。
「ひっどいわねぇー! でも君って、将来詐欺に騙されるタイプかもね」
康平が何か言い返そうとした時、授業が始まり話は中断した。