臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 それぞれ準備運動を始めた先輩達は、終えた者から縄跳びを始めた。

 そして、それを二ラウンド行った者は、シャドーボクシングへと練習が進んでいく。

 揃って練習をするのではない。個々にタイマーのブザーに従って三分動き、三十秒休むペースを守って練習を続けている。

 誰も声を出す者はいない。アップテンポの洋楽こそ流れているが、練習自体は静かだ。

「相沢、今のパンチはワンテンポ遅らせろ」

「兵藤、左へ動く時はもっと大きくだ」

 時折梅田の声が練習場に響く。


 練習はミット打ちやサンドバッグ打ちと、段々ハードなものになった。

 部員達は呼吸こそやや荒くなるものの、口を一文字に閉じ、手を抜かずに黙々と練習を進めている。

 弱音を吐けない空気が練習場にはあった。


 康平は、自分がここで練習をやっていけるか不安になった。

 ただ同時に、パワフル、またはスピーディーに動く先輩達を見て格好いいとも思った。


 しばらくして、康平と健太が帰ろうとした時、梅田が言った。

「ボクシングは地味な練習の繰り返しだ。だがな、自分が頑張った分だけ結果に出易い競技だ。仮入部の期間だけでもいいから、一生懸命やってみるんだな」
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